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広島地方裁判所 昭和61年(わ)1331号 決定 1987年4月27日

少年 H・O(昭42.8.18生)

主文

本件を広島家庭裁判所に移送する。

理由

一  本件公訴事実は、「被告人は、Aと共謀の上、昭和61年8月26日午前零時50分ころ、広島市西区○○×丁目×番×号○○店前路上において、B(当19年)が右Aに対しガンをつけたと因縁をつけ、「お前か、ガンをつけたのは。」などと怒号し、やにわに右Bの腹部などを数回足蹴りするなどの暴行を加え、更に同人を同区○○×丁目×番××号C方北側駐車場に連れ込んだ上、同所において、右Bの顔面を手拳で殴打するなどの暴行を加え、よつて、同人に対し加療1年以上を要する右上眼瞼裂傷、右角膜穿孔外傷等の傷害を負わせたものである。」というのであつて、右の事実は、当公判廷で取り調べた関係各証拠により、これを認めることができる。

二  ところで、関係各証拠によれば更に次の事実を認めることができる。

1  被告人は、3人兄弟の第二子次男として出生し、小学校時代若干の問題行動はあつたものの、ほぼ順調に中学校1年時くらいまでを過ごしたが、昭和56年中学2年生進級後ころから万引、単車盗、家庭内での乱暴(物品に向けられたもの)等の非行が顕在化し、昭和58年1月6日、同年3月31日の2回にわたつて窃盗等の保護事件で家庭裁判所で審判不開始決定を受けた。しかし、同年4月○○高校に入学し、昭和61年3月同校を卒業のうえ、水道配管工を経て同年8月ころから市場作業員として就職し、現在に至つているが、その間本件のほかに非行歴はない。被告人の家族は、○○公社に勤める父、燃肉店店員の母、大学生の兄、高校生の弟の5人家族で、父母間にわずかな葛藤はあるものの、一応平穏な家庭といえ、被告人は特に母親との心理的結び付きが強いようにみうけられる。

2  本件は、被告人の友人である共犯者が被害者らに対してガンを付けたなどと因縁をつけ、喧嘩、口論していた際、偶然通りかかつた被告人が共犯者に加勢するため前示のような暴行を被害者に加え、その結果被害者に右眼視力の極端な低下を伴う傷害を負わせたという事案であり、被害者の傷害は一時は右眼失明という事態にも発展しかねない状態であつたうえ、現在も治療が必要であり、将来の角膜移植等の手術の必要性も考慮されているなど、極めて重大なものである。また、被告人は、事実を確認することもなく、被害者の態度が生意気であるとして、いきなり共犯者と被害者の口論に介入して、共犯者と共に、被害者に対して一方的に暴行を加えたもので、被害者には落度はなく、被告人の本件を犯した動機には斟酌すべきものは少ない。

3  本件についての検察官送致決定後、被害者の視力回復は困難なものの、その傷害は漸次快方に向かい、昭和62年2月20日に被害者の両親と被告人の両親の間で示談が成立し、治療費、休業補償、慰謝料等合計100万円内外の支払いがされ、更に被害者において再手術をする場合は、その際の治療費、休業補償、慰謝料等については別途協議することが約束されているほか、被害者から同年3月7日付で当裁判所に宛てて、被告人の寛大処分を望む旨の嘆願書が提出されるに至つている。

三  以上のとおりであつて、本件犯行の態様、動機、結果の重大性、被告人が本件犯行当時19才に達したばかりであつたとはいえ、年長少年であつたこと等を併せ考えれば、家庭裁判所が本件について刑事処分相当として検察官送致決定を行つたことには無理からぬものがある。

しかし、前叙のとおり、被告人が中学卒業後は本件を除けば非行歴はなく、高校も卒業し、高校卒業後もまじめに働いてきている(但し、鑑別所収容期間中は除く。)こと等に鑑みれば、もともと被告人の性格の偏り、非行性の深度は高いものではないと考えられるほか(本件における鑑別結果、家庭裁判所調査官の調査結果は、いずれも在宅保護(保護観察)相当である。)、被告人の保護環境は不良なものではなく、その父親及び雇い主等が被告人の今後の監護を誓つているうえ、被告人自身本件の家庭裁判所の調査、審判、検察官送致決定後の審理の過程を通じて本件犯行を深く反省悔悟するに至つていることなどの事情を総合考慮すれば、現時点では被告人について刑事処分をもつて臨むより、自己顕示性が強く、仲間の中に無思慮に自己を投入する傾向が認められるため、場合によつては粗暴な行動に出やすい等の被告人の性格、行動傾向の矯正のため、今一度保護観察処分等家庭裁判所の措置に委ねることがその更生に資するものと思われ、また、そうしたとしても社会一般の正義感情に反するものではないと思料する次第である。

四  よつて、少年法55条を適用して、本件を広島家庭裁判所に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 田川直之)

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